土曜日の朝、バスティーユ広場に行った。広場というわりにはさほど広くはない。3月18日、ここに10万以上とされる支持者を集める集会があった。4月22日に第1回投票が行われるフランス大統領選に立候補しているジャン・リュック・メランション、60歳。社会党の上院議員だったが、中道路線に嫌気して離党し、左翼党 Parti de gauche を自ら設立した。今回の大統領選では共産党の支援も受け、「左翼戦線」の統一候補として出馬している。
サルコジかオランドかの選択。それを取材するつもりでパリに来てきてみたが、その二人に劣らない程度にまで話題の中心にメランションがいる。無理もない。世論調査で1月末に7〜8%だった支持率が、3月下旬には12〜14%に上昇。ニュース専門局BFMTVの最新の調査では、オランド(27%)、サルコジ(26%)に次ぐ3位(17%)に浮上した。右翼・国民戦線のル・ペンが16%、中道のバイルが11%でこれに続く。左は、メランションを特集したニュース週刊誌「ル・ヌーヴェル・オプセルバトゥール」の表紙。タイトルは「大いなる破壊者」。
革新系の候補や政党がそれなりの支持を集めるのは欧州では珍しくない。ただ今回の選挙の枠内では、そのラジカルさは際立っている。フランス革命の象徴の地バスティーユでの集会で、メランションは「アンシャンレジーム」打倒のための「市民蜂起」を呼びかけた。「(当選したら)自分は第五共和制で最後の大統領になるだろう」とも語っている。共産党との共同綱領には、最低賃金の引き上げ、週35時間労働制の復活、非正規雇用の公務員80万人の正規雇用化、NATOからの即時撤退などが並ぶ。なるほど、「破壊者」に違いない。
メランションに勢いをつけたのは、2月にフランスの国営テレビ「フランス2」の主催で行われた極右・国民戦線の党首マリーヌ・ル・ペンとの討論会だった。マリーヌは言わずと知れた、10年前の大統領選で第1回投票で社会党候補を破り、決戦投票に進出してフランスをパニックに陥れた国民戦線の初代党首ジャン・マリー・ル・ペンの娘。党の政策を少しずつ現実路線に修正して「田舎のごりごりの右翼の集まり」から保守政党への脱皮を図り、ギリシャ危機によって以前から主張していた「ユーロ圏離脱」が説得力をもつなど、存在感を増していた。
ところが2月のメランションとの討論会で、ル・ペンは「彼を候補者として認めないから彼とは話さない」と言い出し、メランションと目を合わさず、問いかけも無視するという挙に出た(動画)。異様な光景をテレビで見届けた有権者が、メランションの一方的な勝利と結論づけたのは言うまでもない。中道右派の与党(サルコジ)、中道左派の社会党(オランド)に続く第3極の地位がここでル・ペンからメランションに移ったようにも見える。
序盤で余裕のリードを保っていたオランドと社会党にとって、メランションの台頭はどれほど痛手なのか。自分への支持が伸びれば伸びるほど、オランドは政策を左派寄りに調整せざるを得ず、それ自体が一つの意義であるとはメランション自身も認めている。GDPに占める一般政府支出が56%と欧州でもすでに飛び抜けて高い(OECD平均が43%、日本は35%前後)フランスで、公的部門の保護の強化などに踏み出せば、格付け会社はフランス国債に再び微妙な視線を向けるかもしれない。
今回の選挙の候補者のポジションとしては、y軸の上の極にアメリカナイズされたド・ゴール主義者(サルコジ)、下の極にミッテラン的な国父型指導者(オランド)、x軸の右の端に移民排斥を叫ぶ極右(ル・ペン)、左の端により純化した左派(メランション)という構図になる。ただし反グローバル主義、反EU主義でもともと最左派と極右には近似性があり、社会党の優勢に焦ったサルコジまでもが富裕層への課税強化を口にし始めた。
メランションは4月14日にもマルセーユで10万人以上を動員する集会を開き、「第6共和制」の樹立や「文明の衝突」的なパラダイムの拒絶を訴えた。マルセーユは、祖母がスペイン生まれ、両親がアルジェリア生まれ、自分はモロッコのタンジェ生まれのメランションが、10歳の時に家族とフランスに移住して初めて住んだ土地。フランスに帰化したメランションの祖父は、「ラ・マルセイエーズ」がかかると起立させたものだという(参照)。
メランション効果は今回の大統領選にどんな意味をもつのか。ということを頭の片隅に起きつつ、取材を続けます。
さすが、フランス・・・4年前はバイルが「第3の男」として脚光浴びましたが、選挙前に盛り上がる展開ですね。しかし、政治にホンマ関心ある国民性、というか日本の無関心がアカンのやなぁ・・・と彼の地に居た時にはしみじみ思ったりしました。1回目では決まらないでしょうが、メランション効果はさてどっちにどのような結果をもたらすのか、フランスのカフェはしばらく政治談議に花が咲きそうですね。
投稿情報: Sawadaktv | 2012/04/15 04:16